ラグビーNZ代表2023メンバー徹底解剖|落選の深層と英雄の現在
2023年秋のフランス、スタッド・ド・フランスの夜空に響き渡ったノーサイドの笛。1点差(11-12)で宿敵スプリングボクスに屈し、芝の上に膝を落としたニュージーランド代表「オールブラックス」の漆黒のジャージーは、敗れながらも世界中のスポーツファンの心を激しく揺さぶった。あれから月日が流れ、世界ラグビーの勢力図が激変を続ける2026年の今なお、あの大会を戦った登録メンバー33名の足跡は特別な輝きを放ち続けている。
大会直前の低迷、指揮官交代を巡る異例の政治闘争、議論を呼んだスター選手のセレクション、そして決勝戦での悲劇的な退場劇――。激動の時代を駆け抜けた2023年代表戦士たちは、大会後に日本の「ジャパンラグビー リーグワン」をはじめとする各国の舞台へ大挙して新天地を求めた。なぜあの名手が落選したのか、あの夜ピッチで何が起きていたのか、そして東芝ブレイブルーパス東京などで旋風を巻き起こした英雄たちの現在のリアルとは。当時の取材記録と最新の一次証言を交え、その舞台裏を徹底検証する。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2023年W杯フランス大会のオールブラックス33名は、開幕戦黒星の逆境から決勝へ這い上がり、歴史に残る1点差の死闘を演じた屈指の精鋭集団だった。
- 要点2:ブラッド・ウェバーやジョー・ムーディらの落選背景には、高速化する現代ラグビーへの戦術転換と首脳陣の冷徹なフィジカル評価が存在していた。
- 要点3:決勝でのサム・ケイン主将退場という試練、そしてリッチー・モウンガやアーディ・サヴェアら主力のリーグワン参戦を経て、2026年のNZ代表はスコット・ロバートソン新体制のもとで劇的な進化を遂げている。
【登録メンバー一覧】ラグビーニュージーランド代表2023の33名と陣容の特徴
2023年8月7日、ホークスベイのネーピアで発表されたラグビーワールドカップ2023フランス大会のニュージーランド代表スコッド33名は、百戦錬磨のベテランと急速に台頭した新鋭が融合した陣容となった。キャプテンにはフランカーのサム・ケインが指名され、フォワード18名、バックス15名という盤石のバランスで編成された。
この陣容の最大の特徴は、テストマッチ100キャップを超える超弩級のレジェンドたちが屋台骨を支えていた点にある。代表通算歴代最多キャップ記録を樹立したサミュエル・ホワイトロック(当時148キャップ、大会中に153まで更新)、ロックの相棒であるブロディ・レタリック、司令塔のボーデン・バレット、そして稀代のスクラムハーフであるアーロン・スミス。彼ら黄金期を知る重鎮が並ぶ一方で、キャム・ロイガードやタマティ・ウィリアムズといった新世代のフィジカルモンスターが名を連ねた。
以下が、フランスの地で準優勝を果たした「2023年登録メンバー33名」の完全リストである。
| ポジション | 選手名(氏名カナ) | 大会当時の所属(SR) | 特筆すべき役割・実績 |
|---|---|---|---|
| プロップ (PR) | イーサン・デグルート ティレル・ロマックス ネポ・ラウララ フレッチャー・ニューウェル オファ・トゥウンガファシ タマティ・ウィリアムズ | ハイランダーズ ハリケーンズ ブルーズ クルセイダーズ ブルーズ クルセイダーズ | スクラム再生の要となったデグルートとロマックスの両PR。スクラムコーチのジェイソン・ライアン招聘により強固なセットピースを再構築した。 |
| フッカー (HO) | コディ・テイラー デイン・コールズ サミソニ・タウケイアホ | クルセイダーズ ハリケーンズ チーフス | セットプレーの安定とフィールドプレーの推進力を両立。ベテランのコールズは今大会を最後に代表引退を表明していた。 |
| ロック (LO) | スコット・バレット ブロディ・レタリック サミュエル・ホワイトロック ツポウ・ヴァアイ | クルセイダーズ チーフス クルセイダーズ チーフス | ホワイトロックとレタリックの伝説的コンビに、次期主将候補のスコット・バレットが加わった世界最高峰のセカンドロー陣。 |
| ルーズフォワード (FL/No.8) | サム・ケイン(主将) シャノン・フリゼル アーディ・サヴェア ダルトン・パパリイ ルーク・ジェイコブソン | チーフス ハイランダーズ ハリケーンズ ブルーズ チーフス | フリゼルの突破力、ケインの低弾道タックル、そして大会後に世界最優秀選手へ選出されたサヴェアの超人的な仕事量が光った。 |
| スクラムハーフ (SH) | アーロン・スミス フィンジ・クリスティー キャム・ロイガード | ハイランダーズ ブルーズ ハリケーンズ | 高速パス供給の第一人者スミスに加え、規格外のランニングスキルを誇る大型SHロイガードがサプライズ選出で定着。 |
| スタンドオフ (SO) | リッチー・モウンガ ボーデン・バレット ダミアン・マッケンジー | クルセイダーズ ブルーズ チーフス | モウンガを10番に固定し、バレットを15番に置く「ダブルプレイメイカーシステム」がフォスター体制のアタックの根幹となった。 |
| センター (CTB) | ジョーディー・バレット デイヴィッド・ハヴィリ リーコ・イオアネ アントン・リナートブラウン | ハリケーンズ クルセイダーズ ブルーズ チーフス | 12番に定着したジョーディー・バレットのキック力と突破力、13番リーコ・イオアネのアウトサイドブレイクが強烈な武器となった。 |
| バックスリー (WTB/FB) | ケイレブ・クラーク レスター・ファインガアヌク ウィル・ジョーダン マーク・テレア ※エモニ・ナラワ(大会直前離脱) | ブルーズ クルセイダーズ クルセイダーズ ブルーズ チーフス | ウィル・ジョーダンが大会最多タイ記録の8トライをマーク。ナラワの負傷に伴い、バックローのイーサン・ブラックアダーが追加招集。 |
大会開幕直前のウォームアップマッチ(トゥイッケナムでの南アフリカ戦)で7-35という歴史的大敗を喫し、本番の開幕戦でも開催国フランスに13-27で敗れるという最悪のスタートを切ったこのチーム。しかし、そこからの修正力と底力こそが、この33名が後世に語り継がれる最大の理由である。

明暗を分けたセレクション|W杯サプライズ落選の真相と戦術的理由
世界一過酷と言われるオールブラックスのセレクションにおいて、2023年大会のメンバー発表はニュージーランド国内で凄まじい議論を巻き起こした。長年チームを支えてきた看板選手たちが、次々と無情な通告を受けることになったためである。
最大のサプライズは、スクラムハーフのブラッド・ウェバー(当時チーフス)の落選であった。前年のテストマッチまでアーロン・スミスの確固たるバックアップを務め、人間性も含めて首脳陣から絶大な信頼を寄せられていたウェバーを退けたのは、当時22歳の新星キャム・ロイガードの急成長だった。イアン・フォスターHC(ヘッドコーチ)とジョー・シュミット(アタックコーチ)が下した決断の背景には、強固な防御壁を単独でこじ開けられる「フィジカルな走力を持つ9番」の必要性があった。
ロイガードは183cm・88kgというスクラムハーフとしては規格外のサイズを誇り、近場のラックサイドを切り裂く破壊力を持っていた。準々決勝のアイルランド戦や準決勝アルゼンチン戦で見せたように、自らディフェンスラインへ仕掛けて相手フランカーを引きつける能力において、首脳陣はウェバーの経験値よりもロイガードの一発の爆発力を選んだのである。
フォワード陣でも残酷な選別が行われた。長年左プロップの絶対的レギュラーとして君臨したジョー・ムーディ(クルセイダーズ)が外れ、首や脚の相次ぐ負傷によるフィットネス不足が響く形となった。また、突破力に定評のあったバックローのアキラ・イオアネ(ブルーズ)や、若き実力者ホスキンス・ソトゥトゥ(ブルーズ)もスコッドから漏れた。この背景について、当時の代表関係者は次のように明かしている。
「フォスターとジェイソン・ライアンが求めたのは、華やかなオフロードパスではなく、ブレイクダウン(密集戦)で確実にボールを越え、相手のジャッカルを粉砕できる冷徹な仕事人だった。シャノン・フリゼルの完全復活とルーク・ジェイコブソンのユーティリティ性が、イオアネらの落選を決定づけた」
情を排し、現代ラグビーのトレンドである「超高速ラック」と「フィジカルの強度」に最適化したメンバーを絞り込む――。その冷徹な戦術的リアリズムこそが、開幕前の大バッシングを跳ね返す土台となった。
激震の決勝・南アフリカ戦|サム・ケイン主将退場と「ネットの反応」
2023年10月28日、パリのスタッド・ド・フランスで行われた南アフリカとの決勝戦は、ラグビーの歴史において最も過酷で、最もドラマティックな80分間となった。そしてその中心にいたのが、主将のサム・ケインである。
雨が降りしきる重馬場の中、前半27分に痛恨のプレーが発生した。南アフリカの巨漢フランカー、ピーターステフ・デュトイに対するサム・ケインのタックルが、相手の頭部付近に入ったとしてTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)レビューの対象となる。当初提示されたのはイエローカード(10分間の一時退場)だったが、今大会から導入された「ファウルプレー・レビュー・バンカー」システムにより、オフフィールドの専任オフィシャルが映像を精査。前半34分、スタジアムの大型スクリーンに「レッドカード(完全退場)」の宣告が映し出された。
ワールドカップ男子大会の決勝において、主将はおろか、いかなる選手であってもレッドカードによる一発退場は史上初の異常事態であった。テクニカルエリアのベンチに座り、両手で顔を覆うサム・ケインの絶望的な表情は、世界中のテレビ中継を通じて全世界に配信された。後に彼自身が現地メディアの独白企画で語った言葉は、その責任の重さを生々しく物語っている。
「スクリーンにレッドと出た瞬間、世界が崩れ落ちるような感覚だった。仲間を14人で戦わせることになってしまった。あの痛恨のシーンは、私の人生の残りの日々すべてにおいて、消えることのない棘として刺さり続けるだろう」(サム・ケインの事後会見および手記より)
しかし、この絶望からオールブラックスが見せたリアクションは驚異的だった。数的不利に陥りながらも、アーディ・サヴェアを中心に凄まじいタックルを連発。後半にはボーデン・バレットの鮮烈なトライで1点差にまで肉薄した。ラスト数分、ジョーディー・バレットの約50mのロングペナルティゴールがわずかにゴールポストの左へ逸れ、11-12で力尽きた瞬間、ピッチには倒れ込む漆黒の戦士たちの姿があった。
試合中から試合後にかけて、X(旧Twitter)や5ちゃんねる、Redditなどのネット上では賛否両論の嵐が吹き荒れた。当初は「キャプテンの軽率なコンタクト」「完全にゲームを壊した」という批判的な声も散見されたが、試合が進むにつれて論調は一変した。「14人でここまで世界最強のスプリングボクスを追い詰めたオールブラックスの気迫に震えた」「判定の厳格化は理解できるが、決勝戦がバンカーシステムで決まるのは切なすぎる」「ケインを一人で責めることは絶対にできない」といった、敬意と判定基準に対する議論がネットのタイムラインを埋め尽くした。
退任が決まっていたイアン・フォスター監督は、試合後の記者会見で涙を浮かべながら「判定のプロセスについて今ここで議論するつもりはない。ただ、サム・ケインという男がこのチームのためにどれだけの血を流してきたか、そして14人になっても最後までプライドを捨てなかった選手たちを、私は誇りに思う」と語り、激動の4年間に幕を下ろした。

【データ比較検証】2023年主力戦士の「その後の進路」とリーグワンへの大流出
2023年大会の終了直後、ラグビー界を最も揺るがしたのがオールブラックス主力選手たちの「日本への大流出」であった。かつて南アフリカやオーストラリアの代表選手が数多く来日していたが、2023-2024シーズンを皮切りに、世界最高峰の現役ニュージーランド代表が全盛期のコンディションを保ったままジャパンラグビー リーグワンへ合流するという、歴史的な転換点が訪れた。
なぜ彼らは日本を選んだのか。そこには、ニュージーランドラグビー協会(NZR)の厳格なポリシー(原則として海外クラブでプレーする選手は代表に選出しない)と、トップ選手に認められた「サバティカル(有給休職・短期移籍制度)」、そして欧州クラブに比べて過密日程が少なく選手の身体的消耗を抑えられる日本のリーグワンの優れた環境があった。
以下の比較表は、2023年大会で中核を担った代表選手たちの大会直後の移籍先、契約形態、および2026年現在の最新ステータスを客観的データに基づいてまとめたものである。
| 選手名 | 2023年大会直後の移籍先 | 移籍条件・契約の性質 | 2026年現在の動向・編集部評価 |
|---|---|---|---|
| リッチー・モウンガ | 東芝ブレイブルーパス東京 | 3年間の長期大型契約 (NZ代表資格を一時放棄) | 加入初年度からBL東京を14年ぶりのリーグ制覇へ牽引。MVP級の活躍を続け、2026年現在も日本ラグビーの絶対的基準点として君臨。 |
| シャノン・フリゼル | 東芝ブレイブルーパス東京 | 複数年契約 (モウンガと同時加入) | モウンガと共にBL東京のフィジカルラグビーを確立。NZR側が代表資格特例を認めるべきか否かで常に議論の対象となる圧倒的活躍。 |
| アーディ・サヴェア | コベルコ神戸スティーラーズ | 1シーズン限定の短期契約 (サバティカル条項適用) | 神戸で驚異的なジャッカルとトライを量産後、NZ(ハリケーンズ)へ復帰。2024年以降もスコット・ロバートソン体制の副将として代表を牽引。 |
| ボーデン・バレット | トヨタヴェルブリッツ | 1シーズン短期契約 (2027年までNZRと再契約) | アーロン・スミスと共に愛知でプレー後、古巣ブルーズへ復帰。経験値と戦術眼で2026年のNZ代表バックス陣のメンターを務める。 |
| サム・ケイン | 東京サントリーサンゴリアス | 短期契約から完全移籍へ (2024年に代表引退表明) | 2024年シーズンを最後にオールブラックスから引退し、サンゴリアスと長期契約を締結。現場のリーダーとして若手日本人FWを育成。 |
| サミュエル・ホワイトロック | 仏ポー(セクション・パロワーズ) | 2年契約(代表完全引退) | フランスTOP14でプレーを続けた後、2024年春に惜しまれつつ現役生活にピリオドを打った。歴代最高峰のロックとして指導者の道へ。 |
このデータが示す通り、2023年大会はニュージーランド代表の一つの「時代の終焉」であり、同時に日本のラグビーファンにとっては「本物のテストマッチクオリティ」が毎週目の前で展開される黄金時代の幕開けとなったのである。
【実態検証】リッチー・モウンガとボーデン・バレットが日本ラグビーにもたらした衝撃
グラウンドの上で繰り広げられた彼らのパフォーマンスは、単なる「大物助っ人の来日」という次元を遥かに超えていた。特に日本ラグビー界に最大のパラダイムシフトをもたらしたのは、東芝ブレイブルーパス東京に加入したリッチー・モウンガの存在である。
モウンガは加入当初から、日本のラグビー関係者が驚愕する圧倒的な「空間認知能力」と「ゲームコントロール」を見せつけた。パス、キック、ランの判断スピードが異次元であり、味方選手を走らせるタイミングの正確さは、周囲の日本人選手の能力を何段階も引き上げた。BL東京のバックス選手たちは異口同音にこう証言する。
「モウンガがボールを持つと、ディフェンスが1歩フリーズする。だから外を走る自分たちに広大なスペースが生まれる。彼とプレーすることで、ラグビーの視野そのものが完全に変わってしまった」
結果として、長年タイトルから遠ざかっていた東芝ブレイブルーパス東京は、モウンガとシャノン・フリゼルの圧倒的な牽引力によってリーグワンの頂点へと駆け上がった。モウンガが代表資格を失ってでも日本での長期プレーを選んだ背景には、家族との時間を大切にしながら、自らのプロフェッショナリズムを極限まで発揮できる環境が日本にあったからに他ならない。
一方、トヨタヴェルブリッツに加入したボーデン・バレットは、卓越した個人技とトップスピードでのランニングスキルでスタジアムの観客を魅了した。2016年、2017年と2年連続でワールドラグビー世界最優秀選手賞を獲得したキャリアの持ち主であり、フルバックとスタンドオフを高次元で兼任する彼の存在は、対戦相手にとっても「生きた教材」となった。
バレットとアーロン・スミスがトヨタのバックラインで繰り広げたクイックアタックは、日本国内の指導者たちに対しても「ボールスピードを極限まで高めたアタックの設計図」を突きつけることとなった。彼らスーパースターがグラウンド外で見せるファンサービスや、練習後の真摯な取り組みの姿勢は、日本ラグビー全体の文化とプロ意識を根底から底上げしたのである。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|「NZラグビー凋落論」の嘘
2023年大会の前後から、一部のメディアやSNSを中心に「オールブラックスは弱体化した」「ニュージーランドラグビーは資金難で欧州や南アフリカに覇権を奪われ、凋落の一途をたどっている」という論調が散見されるようになった。しかし、これは現場の構造とデータを無視した典型的な誤解である。
確かに、アイルランドやフランスが台頭し、南アフリカがフィジカルと選手層で世界を席巻する中、かつてのようにオールブラックスが勝率9割を維持するような一強時代は終焉を迎えた。だが、それは他国のプロ化と戦術進化が追いついた結果であり、ニュージーランドのラグビーの根幹が揺らいでいるわけではない。
凋落論を否定する3つの決定的ファクトが存在する。
- 育成エコシステムの強靭さ:ニュージーランド国内の高校ラグビー(ファーストXV)や州代表選手権(NPC)の競技レベルは依然として世界一であり、キャム・ロイガードやルーベン・ラヴ、ピーター・ラカイといった次世代の怪物が途切れることなく供給されている。
- 2023年W杯準優勝という結果:開幕戦で敗れ、激震の中で主将が退場する悪条件が重なりながらも、世界最強軍団スプリングボクスと1点差の勝負を演じた地力は、世界で唯一彼らだけが持ち得ていた。
- スコット・ロバートソン新体制への移行:クルセイダーズでスーパーラグビー前人未到の連覇を達成した智将「レイザー」ことスコット・ロバートソンが2024年に就任し、停滞していたアタックとチームカルチャーの再設計を完遂した。
「オールブラックスは終わった」という言説は、勝敗の表面的なスコアだけを切り取った短絡的な見方に過ぎない。彼らは伝統的なプライドを守りながら、現代のデータ解析とグローバルな人材循環に適応する過渡期を乗り越えたのである。
【プロの結論】トップスポーツ組織における「規律と流動性」の教訓
変革期を乗り越える組織マネジメントの本質
2023年のニュージーランド代表が歩んだ激動の軌跡は、単なるスポーツの記録に留まらず、一般のビジネスや組織論においても極めて深い教訓を提示している。それは、「絶対的なアイデンティティ(規律)」と「環境変化に応じた柔軟な適応(流動性)」をいかに両立させるかという問いである。
オールブラックスには、100年以上にわたって受け継がれてきた「ジャージーをより良い状態にして次の世代へ渡す(Better People Make Better All Blacks)」という厳格な哲学がある。しかし、経済的なグローバル化が進み、日本や欧州から莫大な年俸オファーが届く時代において、選手を国内だけに縛り付ける旧来のモデルは限界を迎えつつあった。NZラグビー協会は、サバティカルの柔軟な運用や、選手個々のキャリアステージに応じた契約形態を導入することで、アイデンティティを保ちながら選手の流出リスクをマネジメントした。
また、サム・ケインの退場劇が示したのは、不測の事態における「心理的バウンダリー(境界線)」と「分散型リーダーシップ」の重要性である。主将がピッチを去るという最大の組織的パニックに際し、アーディ・サヴェア、ボーデン・バレット、コディ・テイラーといった副将格が即座に役割を分担し、誰一人として他罰的な態度を取ることなく自らの役割に没頭した。この強固な心理的安全性と自律性こそが、危機において組織が崩壊しないための決定打となる。
【プロの結論】オールブラックスを深く理解できるファン・表面的消費で終わる人の判断基準
ラグビー観戦において、ニュージーランド代表という存在を真に味わい尽くすためには、観る側の視座も問われる。以下の判断基準を意識することで、ゲームの解像度は飛躍的に向上する。
| 判別項目 | 本質を深く理解し楽しめる人 | 表面的な勝敗で一喜一憂してしまう人 |
|---|---|---|
| 戦術・プレーの見方 | ハカや華麗なトライだけでなく、ブレイクダウンの乗り越え方やオフ・ザ・ボールの献身的な動きに注目できる。 | ミスや反則のシーンだけを切り取り、特定の選手やレフリーのジャッジを感情的に批判してしまう。 |
| 選手のキャリア評価 | 日本リーグワンや欧州への移籍を「キャリアと人生の正当な選択」と捉え、異国での進化と還元を楽しめる。 | 「金のために代表を捨てた」「日本に来たからレベルが落ちた」と決めつけ、選手の挑戦を否定する。 |
| 敗戦への向き合い方 | 敗北を「相手国の進化」および「次世代への世代交代の必然的プロセス」として構造的に分析できる。 | 「オールブラックスは弱体化した、オワコンだ」と短絡的な悲観論に終始し、文脈を見失う。 |
【ラグビー ニュージーランド代表 メンバー 2023】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2023年W杯でウィル・ジョーダンが達成した「最多トライ記録」とは何ですか?
A1:ウィル・ジョーダンは2023年フランス大会において、準決勝アルゼンチン戦でのハットトリックなどを含め、大会通算8トライをマークしました。これは、1995年大会のジョナ・ロムー(NZ)、2007年大会のブライアン・ハバナ(南アフリカ)、2015年大会のジュリアン・サヴェア(NZ)が持つ「ラグビーワールドカップ1大会における個人最多トライ記録」に並ぶ歴史的偉業です。
Q2:サミュエル・ホワイトロックはなぜ2023年大会後に代表引退を決めたのですか?
A2:ホワイトロックは当時35歳を迎え、テストマッチ通算歴代歴代2位(NZ史上最多)となる153キャップに到達していました。彼はフランス大会を自身の代表キャリアの集大成と位置づけており、大会後はフランスのクラブチーム「セクション・パロワーズ」で1シーズンプレーした後、2024年に現役生活そのものから引退しました。理由は肉体的な限界だけでなく、自らの知見を後進へ譲り、家族との時間を優先するという人生の決断によるものです。
Q3:イアン・フォスター監督の退任後、現在のニュージーランド代表HCは誰ですか?
A3:大会前から決定していた通り、フォスターHCは2023年大会をもって退任しました。後任には、スーパーラグビーのクルセイダーズを率いて数々のタイトルを獲得し、就任が熱望されていたスコット・ロバートソン(愛称:レイザー)が就任しました。ロバートソンHCは2024年シーズンから正式に指揮を執り、2026年現在も独自のブレイクダンスと情熱的なリーダーシップで代表の新時代を築いています。
Q4:東芝ブレイブルーパス東京にいるリッチー・モウンガは、今後オールブラックスに復帰できるのでしょうか?
A4:現行のニュージーランドラグビー協会の規定では、海外クラブと長期契約を結んでいる選手は代表に選出されません。しかし、モウンガのあまりに突出したパフォーマンスと、代表側の10番の安定性を求める世論の高まりから、国内では「海外組に対する選考緩和規定(ギタウ・ルールに類する特別枠)」の導入が真剣に議論され続けています。モウンガ本人の契約満了時期やルールの改定次第では、2027年オーストラリアW杯に向けた電撃復帰の可能性は完全には消えていません。
まとめ:2023年の敗北が刻んだ誇りと2026年新時代への架け橋
2023年ラグビーワールドカップでのニュージーランド代表は、トロフィーを掲げることこそ叶わなかった。しかし、開幕戦の絶望的な敗戦から這い上がり、準々決勝で世界最強と目されたアイルランドの連勝記録を止め、14人になりながら王者を最後まで追い詰めた彼らの軌跡は、勝利以上の尊厳をスポーツ史に刻みつけた。
あれから時を経て2026年。サミュエル・ホワイトロックやブロディ・レタリック、デイン・コールズといった一時代を築いた巨星たちが去り、スコット・バレット主将率いるスコット・ロバートソン体制のオールブラックスは、よりスピーディでアグレッシブな新世代の集団へと生まれ変わっている。そして、リッチー・モウンガやサム・ケインらが日本の地で示し続けている異次元のプロフェッショナリズムは、日本ラグビーのレベルを過去最高峰へと押し上げている。
あのパリの夜、選手たちが流した悔し涙は、決して挫折の終わりではない。世界のラグビーがよりボーダーレスに、より高次元へと進化していくための、偉大なるプロローグだったのだ。 (出典: ラグビー ニュージーランド代表 メンバー 2023(Yahoo!ニュース))